協働という言葉が一般化しつつある現在、都道府県、市町村などほとんどの自治体で、自治体運営の基本的な方針として、協働の推進或いは協働のまちづくりが掲げられています。
示されている協働の考え方を見ると、NPOだけをピックアップして協働を捉えていたり、行政への住民参加を含めて協働としていたり、市民活動への支援を協働に位置づけていたりと、混乱が見られます。
住民参加の場合、住民の「社会への参加」と「行政への参加」の二つがありますが、前者は市民活動の側面として捉えることもできます。行政への参加は、主権者とその付託を受けた首長(行政)との関係になりますから、協働の考え方を単純に当てはめることはできません。相互に関連しますから線引きも難しいのですが、本質が異なるので一緒にはできません。
一方、市民活動は自主的なもので、自分たちで出来ることは自分たちで行うということであり、協働と言うより「自助、共助、公助」の話です。自助、共助が形作られていてはじめて、協働が出てくるわけですから、市民活動への支援を協働に位置づけることも辻褄が合わなくなります。
このあたりは、別に機会を設けて詳しく考えを披露したいと思いますが、今回は、もう一つ!単純な言葉の問題で混乱の見られるところを整理したいと思います。
よく自治体行政の文章には、市民と行政の「協働」、市民との「協働による」まちづくり、NPOと行政が「協働する」、○○市は「協働を推進する」などの言葉が使われています。自治体の長期計画、つまり基本構想、基本計画などを見ると、必ずといっていいほどこのような使い方をしています。
実はここに落とし穴があります。「協働」、「協働する」、「協働の推進」これは同じ意味ではありません。ちょっと考えるとすぐ分かるのですが、使い分けないとよくわからない文章になってしまいます。昔の首相で「言語明瞭、意味不明」と揶揄された人がいますが、「協働」、「協働する」、「協働の推進」を使い分けないと、「言語不明、意味不明」の最悪の事態を招くことになります。
以前、言葉の解説をしたことがありますのでそれを併せて読んでいただきたいのですが、私は、協働を「人やグループ同士が、お互いに対等に、理解し合いながら力を合わせて、よく考えて、実際に行動して、何かを作り出す(取り組む)こと」と説明しました。
これを基にすれば、「協働」と単独で使う場合は、そのような関係性や理念を表していると考えられます。一方、「協働する」という場合は、具体的に行動すること、協働の関係を築いて何かを作り出す(取り組む)ことを意味します。
これに対し「協働の推進」は、協働の関係を広げたり、協働する取り組みを増やしていくことを示しています。直接、協働することを差しているのではありません。別の表現をすれば、協働の意識の啓発や協働するための条件の整備など、「協働する環境」を整えるということです。
よく分からないという方もいるでしょうから、内容は異なるかもしれませんが、他の言葉で例示してみます。
例えば「スポーツ」、「スポーツする」、「スポーツの推進」で考えてみましょう。違いがはっきりと分かります。
「スポーツ」という場合は、野球やサッカーなど競技種目、運動すること全体の概念を表しています。「スポーツする」の場合は、競技種目や概念ではなく、実際に身体を動かして運動することを指します。では、「スポーツの推進」はどうでしょうか。スポーツの大切さや知識の普及、スポーツする環境の整備などスポーツが盛んになるような条件を整えるという意味になります。
このように「スポーツ」、「スポーツする」、「スポーツの推進」は全く異なる意味を持っています。協働も同じです。まして自治体行政が率先して使っていますから、この辺の使い方を整理して使わないと、非常に分かりにくいものとなってしまいます。
とはいっても、私の勤める自治体だって同じなのですけどね・・・・。