いいことばっかり

ついさっき、ぽっかりと空に浮かんでいた、純白のトイプードルのような雲をもういちど見たくて、2階の南側の窓を開けて目を見張りました。
あの可愛らしい雲は跡形もなく、その代わりに、喧嘩をしている最中の猫の尻尾のような太い飛行機雲が、東から西へ見える限りのなが〜い線をまっすぐに描いていました。このうだるような地上とはうらはらに、上空は冷えているのでしょうか。
こんなに太くて長い飛行機雲を見たのは初めてでしたので、あわててカメラを持ってきたら、電池切れ。仕方なくこの珍しい光景を頭に叩き込んで、しばらく空を眺めていました。
なんだかほかほかとうかれ気分です。
こんな素敵な光景を、この飛行機に乗っている人たちは気がつかないのですよね。もったいないこと!
これをきっかけに、楽しいことが続きました。
電話が鳴ったので受話器を取ったら、兄からの安曇野へのお誘いでした。一人になると悪いことばかりではありません。
考えてみたら3人兄弟の真ん中で、女一人の私のことを気にかけてくれている、これはなんだか嬉しい気分です。
そして翌日は娘がコンサートに誘ってくれました。
これは池袋の芸術劇場で、ここは池袋の駅前とはいいながら、あの雑然とした雰囲気を考えただけで、ともすると敬遠してしまう場所ですけれど、大好きな仲道郁代さんがショパンのコンチェルトを古楽器で演奏するという、けだるい夏の夜の癒し効果抜群の演奏でした。
10年も前になるかしら、荻窪の小さなサロンでコンサートを開いたことがありました。50人ばかりのお客様にお茶をサービスしながら、写真家のお友達のイクコさんの、素晴らしい写真も展示して、彼女の手作りのケーキを皆で頂く素敵な企画のコンサートでしたけれど、そのときに会場にあったプレイエル。モーツアルトがこよなく愛したというこのピアノの柔らかい響きに、みんなうっとりとしたことを、このピアノとの再会のなかで、思い出しました。
その時伴奏をしてくださった同級生のお友達は、数年前癌であっけなくこの世から姿を消してしまいましたけれど、ちょっとしたきっかけで、彼女のことも走馬灯のように頭を駆けめぐりました。
いつもながら仲道さんのトークは魅力的です。古楽器のプレイエルは鍵盤の沈みがわずか4ミリで、幅はカロリーメイトというお話に会場にはさざ波のような笑いが浸透していきました。
ほかの楽器を演奏しているようで、一つ一つの音に気持ちを込めて弾かないと、音を外してしまうんだそうです。でも彼女の演奏は当然のことながら、全楽章を通して、たった一つさえもミスタッチがありませんでした。
絶妙なトークと素敵な演奏に、熱風さえも涼風のように感じてしまう程の、さわやかなコンサートを聴いた夜は、もうぐっすりです!
後日談……コンサートで渡されたパンフレットを見ていたら、来年の仲道さんのベートーヴェンのコンチェルトが目に留まりました。早速娘にチケットの手配を頼みましたら、なんと、半年以上先のこのコンサートは殆んどチケットが残っていませんでした。今の世の中は気をつけていないと美味しい情報を見落としてしまうのですね。
サントリーホールのE席だけが残っているというので、この、ステージ後方で、観客席と向き合うスタイルの初体験となりそうです。
記録的に暑い夏はまだまだ終わりそうにもありません。そして、私にとってこんなに多忙な8月も記録更新です。
ここ2年程は夫の看病で、通院以外殆んど出掛けることがありませんでした。
そのリバウンド現象とでもいうのかしら。
来月本番のモーツアルトのレクイエムの練習の間を縫って、仲道郁代さんのショパン、西本智美さんのヴェルディのレクイエム(これは圧巻でした)のふたつのコンサート、そして兄の一族のお邪魔虫になっての安曇野逗留、帰ってすぐに一週間前倒しした夫の一周忌法要と、息をつく間もないうちに、この狂ったような暑い8月が終わりそうです。
気がついたら、庭の雑草も記録的な成長を遂げて、毎年芽が出たころに摘み取る青い草は、ねこじゃらしだったんだとはじめて気がつきました。さすがに恥ずかしくなって、日の落ちるのを待って、毎日すこしずつやっつけることにしましたけれど、採って3日目にはもう丈が伸びています。人間にあてはめてみて、雑草教育のすごさというものも、目の当たりにしています。
要するにほっときゃ成長するんだ。
今夜も2階の寝室は室温が32℃になっています。でも枕に耳をつけると、庭の隅から虫のすだく音が伝わってくるようになりました。あとひと頑張りですね。
今日は6時半からレクイエムの練習でしたけれど、その前に同じ場所で小山実稚恵さんのラフマニノフのコンチェルトがあるのを見つけて、2時間ばかり早く出掛けて当日売りで、今月3つ目のコンサートを楽しんできました。
このホールのスタインウエイはとても音が鳴るので好きですけれど、それよりも小山さんのオーケストラに負けない音量に驚きました。
それにしても我ながら少々遊び過ぎ。
どうなってんの??
最近巷にはびこっていることで、とても気になっていることがあります。
注文したコーヒーを運んできて、どうして「こちらコーヒーになります」っていうのかしら?
どう見ても、お盆の上の物体はすでにコーヒーなのに、……なります……っていうところをみると、これはまだコーヒーではないのでしょうか。テレビの「超」くだらない番組で、お笑い界の人たちが「…わらかす」というのもとっても嫌です。
小学校の国語の教育は、もはや捨て去られてしまったのかしら。聞いたところによると、小学校の時間数は、秋からまた増えて、土曜日も午後まであることになるようです。何を教えるのかしらね。
最近ブームの漢字のクイズは、それなりに面白いけれどそれより先に、正しい日本語を身につける基礎教育をしてほしいと思う、おせっかいおばさんです。
言葉だけではなく、モラルも軸が完全にずれてしまいました。わが家の近くの私鉄の駅前は、道路の両端に狭い歩道があるのですけれど、たださえかつて長寿村とニックネームをつけられたこの町は、60年前の戦火からも逃れて、老人だらけで、電車がついた時は、さながら国会の牛歩戦術のような歩みで混雑します。
そんな中を、20代の女性が、ベルを鳴らし続けて、「どいてください」と言いながら、歩道を自転車ですり抜けていきます。
「歩道」と言うからには歩く人優先なんじゃないかしら。思わず私言ってしまいました。「あなた無理よ、降りなさい」その女性は“フン!”といった表情でむりやり追い越して行きました。
アメーバのようにじわじわと日本従来の良識を浸食しているのは、いったいどこのどやつなんでしょう。
敬愛する私のドイツ語の師匠のクリスタさんは、イントネーションは少しおかしいけれども、正しい日本語を使います。
彼女が「日本語の美しさがとても好き」、と言った言葉が忘れられません。
でも私はあの、何のためらいもなく、信念をもって前に進むといった感じのドイツ語の流れが大好きです。
そしてドイツに行くと真っ先に目につく、背筋を伸ばしてまっすぐ歩く若者の美しさに目を見張ります。
だから成田に降り立って、背骨がなくなってしまったような、くにゃくにゃした歩き方の日本人を見ると、この国の将来に大きな危機感を抱いてしまいます。
今月は、お友達のご招待で東京湾の「華火」見物に行く機会がありました。
人形町から観光バスに乗って会場に着くまでの、おびただしい人の流れを見ていたら、ダントツに多いのが、浴衣姿の若いカップルです。女の子の浴衣姿は可愛いし、男の子の浴衣もいいものですけれど、ぐちゃぐちゃに崩した着付けと、てれてれした歩き方は戴けません。
おもわず「がんばれニッポン、チャ・チャ・チャ!」って叫びたくなりました。
気の遠くなるような連日の暑さに、何をする気も起こらず、それでも今日は午後になって、珍しく少しばかり冷気を含んだ風が通って行くので、冷房を消して風をいれました。
ベッドに転がって本を読んでいると、色々な音が聞こえてきます。まず、頭の上が航路になっている羽田からの飛行機が、朝夕は目白押しです。そして、近くを走る2つの路線の電車の音が1分おきに、また、多摩川を渡る新幹線と横須賀線の音。これは車両の数で聴き分けられます。そんな中をバイクがちょっと走っては停まるのは、郵便屋さんか夕刊の配達です。そういえば夏休みだというのに、このところ子どもの声が聞こえないのは、どこかにキャンプにでも行っているのかしら。
あれ?怪しの衝撃音が、と思ったら、四つ角の交通事故でした。
この角は、坂を勢い付けてあがって来た車との出会いがしらの事故が頻繁です。理由は簡単、坂と交差するわが家の前の道の角の、一時停止の標識が少々小さくて見にくいのです。でも一向に改善されることなく、事故を繰り返しています。警察が地域のことにあまり熱心に向き合わないのは、わが家の泥棒騒ぎでしっかりと認識しましたから、これに関しても自衛手段で身を守らねばなりません。
お向かいのキッチンから俎板の音が響いてきました。ああ、今夜は大根のお味噌汁を飲みたかったのに、暑さにばてて、買い物に行きそびれてしまいました。さて、何を食べようかしらね。今日も冷蔵庫のお掃除に終わりそうです。
HOME