1日

 新しい膝かけを編み始める、5枚目。
年度も改まって、気持ちもリセットして、今年は被災地の仮設住宅に住む方のための膝かけを編むという目標が出来て、なんだか緩んでいた細胞群も引き締まったというような気分。
 針を進めていくうちに、あれもこれもと残り糸の配色を考えるのがとっても楽しい。 それにしても、年中何かやっていないと落ち着かない貧乏性の性格は、死ぬまで続くんだろうな、ま、それもいいか、といったアバウトさは、我ながら典型的な血液型 O 型だわ。


3日
 爆弾低気圧とやらが突然やって来た。
そんな奴は呼びたくもないけれど、来てしまったからにはそれなりの対策を取らなければならない。
 あいにく、今日は午後からデイホームに行かなければならない。
 そうそう、あれがあったっけと、2階のクローゼットの奥から、山用のウインドヤッケを取り出す。
 10年も前にはこれを着てせっせとスイスの山に遊びに行ったっけ、と、懐かしい。
 お揃いで買った色違いの夫のカラシ色のが並んで置いてあるのを見たら、走馬灯のように回想が広がって、ほわほわとした気分になった。
 出掛ける時ポチポチと降りだした雨は、100b歩かないうちに横殴りの暴徒と化した。
 傘が差せないので、フードで顔をすっぽりと覆ったけれど、なかなか開かない踏切を待つうちに、顔までびしょびしょになった。
 辿り着いたホームの1階で、「こんにちは」、と挨拶したら、「こんにちは」と返って来る。
 当たり前かもしれないけれど、このとんちきめ、「雨の中をどうも」、ぐらい言えよ……、とは言わない。
 自分のために行っているのだから、と気持ちを飲み込むけれど、言葉の足りなさが気になるのは老化現象?!最近、感じるのが、ボランティアは使い捨てと思われてるんじゃないかということ。

 1時間たっぷりと歌って弾いて、どうせ濡れたのだから、と、帰りにホームから坂を上って、坂を下りてお寺へ地代を払いに行った。
 なにもこんな大風雨の時に行かなくてもいいのに、と思いながら、『決めたことを決めた時にやらないと気がすまない』という大欠点が私にある。


5日
 「MMKK河津旅の反省会」と称しての集まりでマチコさん、ミワコさん、クンコさんが来訪。旬のトビウオをフリッターにしてお昼にしようと決めていたので、昨日玉川高島屋に出向いて、三枚下ろしにしてもらってあったのを、夜のうちにチーズと卵の衣を冷やしておいて、作ったけれど、昔ほど美味しく作れない。
 わざわざこんな美味しくないものをご馳走するなら、お寿司でもとった方が良かった、と心の中でひとりつぶやく。
 今日はあれこれと頂いたお土産の山で、幸せ気分。

 隅田川にお花見にいこうという相談が、結果的には上野駅で集合。
マチコさんが予約しておいてくださる駅ナカの“特製あんずあんぱん”を買って、葉桜?を鑑賞し鈴本演芸場の中席に行く約束となった。遊ぶ種は「まさごの数」ほどある。

          

8日
 横浜元町に行く。実はこれには止むにやまれぬ事情があった。
 1か月ほど前に頂いた、イギリス製の素敵なモーニングカップをちょっとしたはずみに割ってしまったのだ。
 余りにも申し訳ない。下さった方の暖かいお気持ちに対しては、たった1カ月で割ってしまったとは、どう考えても言えない。
 すぐに買ってこよう、と軽く考えたのは甘かった。
 目指すお店では、もはや同じものは手に入らなかった。
 手にすっぽりと馴染む赤い花のカップは、もう私のところには戻ってこなかった。
 どうやら1点もので、しかも次々に新しい絵柄が入ってくるので、必要なものはもう霧の彼方。
 少々違う色で、お店の人が勧めるものを買ってきたけれど、前に頂いた柄が気に入っていたために馴染めない。

 それでも、久しぶりに一人歩きした元町はお洒落で、雑然と人の多い私の町より、しっとりとした静かな雰囲気が、落ち着いた気分にさせてくれて、リッチな気持ちになった流れで、“キタムラ”で、夏のバッグと前から欲しかった小銭入れを買ってうきうきと帰って来た。


13日
 一昨日の晩、つけっぱなしのNHKラジオ深夜便から知っている名前がながれてきた。
 お友達のミチコさんの次女のノリコさんだ。江戸東京博物館の学芸員をしている彼女の制作した「ザ・タワー」という企画展が、江戸博で開催中という。
 1時間ちかく話を聞いているうちに、彼女の思い入れが伝わってきて、思わず聞き惚れた。
 そこで、今日は気温もぐんと上がって外出日和なので、さっそく行こうと思い立った。
 久しぶりに行く両国は、花の盛りは過ぎたけれど、うらうらと江戸情緒が漂って、地下鉄から地上に上がった途端に、懐かしく温かみのある風が吹き抜けて行った。

 平日で空いていたので、たっぷりと時間をとって、久しぶりの展覧会を楽しむことが出来て、このところちょっぴり溜まってしまっていたストレスが、す〜っと消えていく感じだった。

 展示室の出口のお茶処で、本を読みながら、極上のお煎茶とわらび餅でゆったりとしたひとりの時間を過ごし、それだけで豊かな気持ちを取り戻したけれど、問題は帰り道。
 地下鉄大江戸線の両国駅で、入って来た電車に飛び乗ったら、次は蔵前、とのアナウンスで、反対方向に乗ってしまったことに気がつく。
 蔵前はたしか、地下鉄浅草線が走っている。それで帰ればいいんだと思い、下車してホームにいた駅員さんに乗り場を聞いたら、上に上がって改札を出てください、という。
 言われたとおりに歩いたら地上に出てしまった。
 目の前の大通りの、どこを探しても地下鉄がない。100m以上歩いてやっと見つけた入り口を降りたら、その長いこと。
 おまけに全部階段で、エスカレーターなんてしゃれたものはどこを探してもない。
 今朝は40分かけて整形外科のリハビリを受けてきたのに、私の膝は元の黙阿弥状態となった。
 そこでまたまた、ホームに入って来た電車に乗ったら、次は浅草!ナンタルチーア!また反対方向だ。
 ここまで来て腹をくくった。こうなったら浅草で観音様に家内安全のお礼を言ってこよう。
 それにしても今日の路線はなんて不親切なんだろう、どこもかしこも階段、かいだん、カイダン……。
 浅草で地上に出た途端に、目の前にぬっと覆いかぶさってくるスカイツリーの色気のないこと!
 誰かが「只突っ立っているだけ」と言った言葉が思い出される。
 ついさっきまで展覧会で世界のタワーの美しさに見惚れてきた目には、何の感慨もわかない。
 東京タワーだって、つい2年ほど前に房総半島の花摘みツアーで『はとバス』に乗った時、おまけのようにスケジュールについてきて、初めて上ったのだから、ましてや今大騒ぎになっているスカイツリーには、生きているうちに上ることはないだろう。

 人見知りはしない性格だけれど、なんだか馴染めないタワーだわ。
もし、東京タワー派とスカイツリー派のどちらかにはいれ、と言われたら、ためらいなくあの女性的美に溢れた東京タワー派を選ぶだろう。
 さて、観音様は相も変わらず人でいっぱい。外人が多い。ま、これは喜ぶべきことだわ。
 帰り道は仲見世の裏の人気のない通りを歩いて、角の店で出来たてほやほやの大学芋を200グラム買って帰った。これ、美味しかったなあ。また買いに行こうっと。

          

16日
 バスを乗り継いでパンを買いに行く。
週に3日しか焼かない店だけれど、フランスパンでこんなに美味しいのは滅多にない。
 だから一週間に一回買いに行く。
 風が冷たく、道路が混んでバス20分待ち。
 今日は気温がぐっとあがるという予報だったので、薄着で行ったら、さ・む・い!

 買ってきた小さめの4本のフランスパンを切って冷凍にして、ほっと安心する。
 美味しいものには努力を惜しまないところは、私の長所 (?)だと思っている。
 本来が朝食のためのパンなのだけれど、どんなにお腹がいっぱいでも、つい手が出てしまう生来のパン好きのために、このところ何十年ぶりに減った体重が、また戻ってきてしまっているのは困ったこと。
 それでも、まちこさんの庭の柚子で作ったジャムとの相性が、なんともいえないこのフランスパンがまぶたにちらついて、ついつい買いにはしってしまうのだ。ちなみに、この店の名前を未だ知らない。


20日
 なんの変哲もなくただただ忙しくしているこの月は、日記に記すことも何もなく、気がついたら4月も早や20日。

 今日は、なぜか夫の先輩のグループのメンバーになって20年の「二金会」の、1年に1度の例会のために、白金の都ホテルの「四川」に行く。

 夫のはるか先輩方のこのグループに入ったのは、確かヨーロッパ旅行の穴埋めだったと記憶しているけれど、先輩との付き合いが重荷だったらしい夫は、国内の例会には殆んど出席せず、私はご馳走が食べられるという理由だけで、せっせと出席していて、現在に至っている。
 それが気が付けば旦那さま方の殆んどが、昇天してしまい、今は未亡人会となった。
 それでもこの会が、いつも賑やかで楽しいのは、奥様方が全員(私以外)90歳を超えて、出てくるのに付き添いが必要となり、若い人の出席が増えたためなのだ。
当然ながら全員女性で、付き添いグループも打ち解けて仲良く、90歳組も、とてもとても歳を感じさせない若さの方ばかり。

 H夫人はホームに入って2年、それでもいまだに毎年秋には、上野の展覧会に出品なさる画家、S夫人は、土地を借りて畑作りを楽しみ、収穫したルバーブの手製ジャムは絶品なのだ。いつもこの会を企画し、全員に招集をかけられるC夫人は、きちんとした和服姿でお出ましになる。

 私が90歳まで生きた時に、こういう姿で居られるかしら、と思ったときに自信が全くないけれど、人生のお手本のようなこの方がたを心から尊敬してしまう。


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