ある方から聞いた話です。数ヶ月前、外孫さんが遊びに見えたときのこと、帰りに送りがてらお食事をしてきました。
車に乗りきれなかったため、一緒に住んでいる内孫さんには、お土産を買って帰り、届けに行ったところ、お嫁さんが子供を置いていかれたことに感情を害したのか、それ以来口をきいてくれなくなったそうです。
こころやさしいH子さんは、長いこと身を切られる思いで過ごしていました。
良かれと思ってやったことが、すべて裏目に出てしまったようです。
只でさえ綱渡りのような嫁姑の関係なのに、と、経験のある私には、直にH子さんの痛みが伝わってきました。
お料理の得意な彼女は、何度か美味しいものを持って2階の階段を上がりましたが、いつも、そのまま持って降りる羽目になったそうです。
どんなにか辛い数ヶ月だったこと! とH子さんのことを思う一方で、私にはお嫁さんの気持も理解できるような気がします。置いていかれた子供の悔しい気持が、そのままお母さんの気持となって、思わず表れてしまったに違いありません。
この数ヶ月、お嫁さんもどんなにか辛かったことでしょう。
ある日のことでした。何人かの友人がH子さんの家に
集まりました。
月1回のピアノのお稽古です。先生を呼んで、持ち回
りのレッスンをしているということでした。
この日は、少人数ながら年2回音楽好きな人が集まっ
てやっている、ミニコンサートの練習日にあたっていて
F子さんが、「デュランのワルツ」を弾きました。
F子さんのピアノは、情緒たっぷりという定評がありま
す。
例によってH子さんは、ご馳走を2階に運んでいきました。きっと、今日も受け取ってはもらえないだろうと、承知の上だったと思います。
ノックに応えて出てきたお嫁さんが、ひとことぽつんと、「いい曲ですね…」
この瞬間に、氷は融けたようです。
この曲は私も遠い昔、高校生だった頃に弾いたことがありますが、何ともたおやかなワルツです。もし、今後人間関係でつまずいた時があったら……
その時のために、もう一度練習してみようかしら?
でも、それよりも、人さまとのお付き合いを失敗しないように、気を配るほうが先決かもしれませんね。
音楽を好きでよかったとしみじみ思うのは、こういう時です。