朝のバスのドラマ
再び巡ってきた緑の季節です。
木の芽時はなんとやら……といいますが、確かにいろいろなことが起きたり、発見したり
します。
そして、人の気持も high になるようです。
例に依ってバスのシートで、都内の緑を楽しみながら、代々木公園のホームレスの
テントは、なんで青いのだろう、緑にすればまわりの景色にとけこんでしまうのに……と
考えているところに、3人組のオバサンが乗ってきました。
3人ともニコチンで鍛えたらしい、どすの利いた低音ですが、かなり大声で喋っています。
少々うるさいな、と思いながらも、車窓を駆け抜けて行く緑に心をうばわれていると、ふと話の内容が割り込んできました。
明らかに北のほうのイントネーションです。
「あんだ、まだ旦那となかよぐすてんの?」 ドキッ!
「すてねーよ、口もきかね」
俄然興味をもった私は、しばらく緑との対話をお預けにして、おばさんのはなしに耳を傾けることにしました。
ざっと解説しますとね、その人は(あえておばさんというのはやめますね、だって、私だってれっきとしたおばさんなのですから…)
「すてやるのは、食事のすたくだけ、味なんてどうでもいいから、お膳の上に黙っておいてやるんだ」
「居てやるだけで有難く思えよな」 …だそうです。
そういえば、この間の友人との会話で、抱腹絶倒しました。
ある方のお隣の奥様は、旦那が箸をとったら、隣の部屋からつけておいた紐で、お盆をひっぱるんだそうです。
勿論夢のような願望でしょうけれど、積年の恨みがにじみ出ています。
かくいう私だって、子供が成人したら、「ワカレテヤル!」 と思ったことも幾たびか……
旦那だってひょっとしたら、常に若い女性の姿がちらついていたかもしれません。
でもある時気がつきました。子供が大きくなるということは、私たちもそれだけ歳を重ねていくということなのですね。
今更この哀れな老人を見捨てられましょか。
私たちも「人」という字の意味が身に染みて感じられる歳になっています。
バスの3人組だって、乗るときにシルバーパスを見せていましたっけ。…ということは、70歳をすぎているのですよね。
〜うーむ、元気だなあ!〜
雨に叩かれた欅の枝がしょんぼりとうなだれて、過去の企業戦士の姿とダブりました。
気がつくと後ろのやかましい会話が途絶えています。
降り際にそっと振り返ると、3人とも朝から爆睡中でした。
