
めぐり合い〜ジュンコさんのこと
私の大事なお友達“ジュンコさん”のことは、先月の
「ネルフェンシュメルツェン」のページに書きましたの
で覚えていてくださる方もあるかと思います。
今日はそのジュンコさんとの因縁について。
重複しますが、彼女は私が若い頃入院した時以来の親
友です。その開けっぴろげで裏のない、それでいて温か
い人柄は、私をすっかり引き付けてしまいました。
どうやら自他共に認める粗野な性格の私は、しばしば失言して、回りにご無礼のかずかずを繰り返しているのですけれど、そんな時も人によっては、あとでフォローしなければならないことを、彼女は「あはは」、と笑って許してくれます。
そんなジュンコさんが大好きで、長い年月付かず離れずながら、親しい関係を続けてきました。
つい先ごろのことです。一緒に取り寄せているお茶が静岡から届いたので、届けに行きました。
電話をすると、待ち構えていたように、「お昼をご馳走するから駅で待ってて!」と言われ、彼女の性格を熟知している私は、遠慮抜きの二つ返事で、我が家から5つ目の電車の駅へ駆けつけました。
そして美味しい中華料理をご馳走になってから、彼女の家まで電車の駅2つ分をおしゃべりを楽しみながら、散歩しましたが、沈黙の間の与えられないほど、お互いに報告することがたくさんありました。
それは近所の猫の話から、お墓参りのこと、近くに建ったマンションがいつまでも空いているなど……尽きることがありません。
ジュンコさんの家に着いて、お茶を飲みほっと一息ついた頃に、何を思ったのか彼女が1冊の古びたアルバムを抱えて来ました。
「これ私の父の写真なのよ」どこの家にでもありそうな、ご先祖様のセピア色の写真がびっしりと貼られています。
3人姉妹の長女だった彼女の、お姉さんらしい落ち着きのある様子からは、とてもご両親に可愛がられて幸せに育った様子が垣間見えています。
故あって彼女はお父様の姓を名乗っていません。でも、なんて幸せそうな!と思わず惚れ惚れとみてしまうような仲の良いご一家とお見受けしました。
私は、彼女が幼い頃のことを話すのを聞きながら、そのたくさんの家族写真を眺めていて、なんだかはっとする予感のようなものが体を突き抜けるのを感じました。
そしてそれは、私をうろたえさせるような、怪しげな何ものかで、もしやと思いながら、次第にたしかな確信となって、私の胸のうちに大波のように押し寄せてきました。
一枚の写真を指さして、「これは何処で撮ったの?」と聞く私の声は、少し上ずっていました。
「あ、それはね、相模カントリークラブに連れて行ってもらったときのスナップなの」
思えば、今までそんなにお互いの親の話をしたことがありませんでした。
……回りくどい言い方は全部省いて結論を急ぎますと、二人の父親たちは、どうやらお友達同士だったのです。
どちらも横浜で船に関係する仕事をしており、場所も馬車道の通りを中に挟んだ向かい合わせの町です。
私も、父に相模のゴルフ場に連れて行ってもらったことがありました。そして、ゴルフをやらないのに、子供がこんなとこに来ていいのかしら?と思いながら、あ、あそこにも子供が居る、となんだか安心したのを覚えています。ひょっとしたら、それはジュンコさんだったかも知れません。
話しながら彼女の顔をみると、うっすらと涙ぐんで
いました。
どうして今までこんなびっくりするようなことに、
話題が触れなかったのでしょうか。
お互いに自分たちのことで充分満足する絆ができて
いたからでしょうか。
でも、なんだか見えない力が働いているような気
がしてなりません。
そのことに思い当たって、二人ともなんだか呆然と
してしまいました。
あの世に行ったら報告することが出来たわね、とお互いに笑い合いましたけれど、ひょっとしたら、今頃天国で、二人の父親が拍手してくれているかもしれません。
そして私たちはますます強い絆が結ばれたようです。
後日兄のところに電話をして、父の交友関係の写真を探してもらうように頼みました。
それが届いたら、二人で虫眼鏡を駆使して、確かな証拠を探し出すのを今から楽しみにしています。


