カルメン

 少し前の話になります。梅雨の中休みの或る日、
チェコ・ブルノ国立歌劇団のカルメンを鑑賞しました。

 オケ、コーラス、バレーとすべて自前の引越し公演で、
これは「バレエ・ボレロ付き」という看板に惹かれて
チケットを買ったのですが、開幕早々、序曲の弦楽器
と打楽器のかすかなタイムラグが気になってしまい、
なかなか気持が入り込めませんでした。
 
 好意的に考えれば、どうやらシンバルの位置の関係で
壁に音が跳ね返ったせいだったようです。

 でもカルメン役のガリヤ・イブラジモヴァと、ホセのミハル・レホツキー(わ〜!舌かみそう)の歌は見事でした。

 カルメンは学生生活最後の年、学校の芸術祭でフラスキータの役をやったことがあるために、今でも暗譜しています。
 
 展開していく曲の進行につれて、昔のあれこれが思い出されて、郷愁にひかれる大好きなオペラです。

 けれども残念ながら、今回の出来は、満点というわけにはいきませんでした。
 席が前のほうだったせいもあり、演技のほつれが見えてしまうのです。
 ひょっとすると、出演者がリラックスしすぎていたのかな?
 主役の二人の豊かな声量がなかったら、消化不良のまま終わったかもしれません。

 「カルメン」は、やりやすいオペラなのでしょうか。
よく外国の歌劇団がやりますけど、どうもあまり上手でないケースが多いようです。
 
 残念だったのは、ホルン(だったかな)が音を外したこと、3階のソロの男性がバーに足を引っ掛けて大きな音をたてたこと。

 最近は旅行会社の貸切り公演というのをよく利用します。
この値引き企画で、日本人も随分オペラ人口が増えたのではないでしょうか。

 クラシック派としては嬉しい話ですけれど、失礼ながら、いわゆる音楽会慣れしていないと思えるマナーの悪い観客が多いのも事実です。

 この日は、後ろの人がバッグをかき回す、しゃわしゃわというビニールの音がいつまでも聴こえて、耳に障りました。
 
 

 隣の席に座った今風のスリップドレスのお嬢さんは、
食べかけのアイスクリームを持ってはいってきた挙句、
残りを座席の下に置いていってしまいました。
 この人は座ってまもなくひっくり返って寝てしまい、
なんと勿体無い!今世界の流行り言葉になりつつある 
「mottainai」ってこれにも当て嵌まるな!と変なと
ころで実感しました。

 


 終演後、とっぷり暮れた週末の渋谷は、駅までのわずかな距離が、まっすぐ歩けないほど若い人の群れで溢れ返り、時代に乗り遅れた我ら「じじばば組」は、日本の行く末に一抹の不安を覚えながら、帰途についたという……お粗末の一席でした。