悪い奴!

 夕食の支度をしていたら、電話が鳴りました。受信音は非通知を知らせています。
ガスを消して、受話器を取るとくぐもった声が伝わってきました。

    「もしもし、ご主人いらっしゃいますか?」「どちら様ですか」
 
    「コーノと申します」「どちらのコーノさんですか」
 
    「UCLAのコーノです」え?あやしい!と思いました。

    「どういうご用件ですか?」
 
    「最近海外から帰ってきましたので、ご一報をと思いまして」
 
    「今留守ですから(うそ)後ほどこちらからご連絡しますので、
      そちらのお電話番号をどうぞ」

    「………」「もしもし、もしもし……」「………」こちらから切りました。

 2階の夫のところに行って心当たりがあるか聞きましたが、そんな人は知らないと言います。

 でもそういえば前にも、海外から最近帰国したのでご一報を、と言って、かけてきた人がいたとか。
その時はなんでも、その人のおじさんが夫の友人といったとか、本人が、心当たりがないから、とこちらから切ったそうです。
 
 それにしても「ご一報」とは!余程ボキャブラリーの乏しい奴に決まってます。
多分学校の卒業名簿か何かで、手当たり次第にかけているのでしょうね。

 だから気が付かないで、2度同じところに掛けて…あほ!

 大体、食事時間に非通知でかけてくる手合いは、セールスかあやしい電話に決まっています。

 それにしてもこの時代に、UCLAとか最近海外から帰国したとか、必要があれば地球の何処からでも、一瞬にして連絡のつけられる現在に、なんだか手口に時代錯誤を感じます。

 してみるとこれは若い人ではなさそうです。

 この件については、以前にちょっとふれたことがありますけれど、何年か前に、続いて私たちの友人の方関連で、2件同じようなことがありました。どちらも半年から1年前にご主人が亡くなったお宅です。
 偶然とはいえ、この話を聴いたのが同じ日、それも、被害にあった方からの電話で、そのことを聞いている最中に、キャッチフォンで入ってきたのが、同じ話だったのです。

2つの例とも、〔最近海外から帰国して、お悔やみが遅れましたが、お参りに伺いたい、と言って現れ、〔お香典を〕、と言って懐に手をいれて、〔あ、上着をガソリンスタンドに置いてきてしまった、6時までに帰ってくるので、お金を貸して欲しい〕、といった内容でした。
それも、〔5万円貸して〕、とか、もういんちきを絵に描いたようなやり口なのです。

2軒とも亡くなった方が知名度の高い方だったので、どうやら新聞記事を切り抜いて時期を虎視眈々と狙っていたようです。
 どう考えても同一人物のこいつめは、この月の収入がよかったでしょうね。

 両方のお宅が、奥様がひとりだったので、恐くて帰ってもらいたい一心で、お金をいくらか渡したようです。

 ひとの弱みに付け込む卑劣な奴としかいいようがありません。

 こんな奴は、舌を抜いて針の山で座禅を組ませた後で、地獄の釜の底に沈めてしまうよう、お閻魔様にお願いしなくちゃ!

 そういえば思い出しました。もうず〜っと前の、若いときのことですけれど、都心のホールで生徒の発表会をした時のことです。

 最後にステージで写真撮影をするため、椅子運びを手伝っている時
  (そうです、3流ティーチャーは会のときに社長兼小使いなんです)
ひとりのジェントルマンが近寄ってきました。
 恭しく最敬礼したその人は
 
「先生、今日は子供が大変お世話になりました、お手伝いいたします」
 
「有難うございます」
 
「お荷物お預かりします」
 
「恐れ入ります」……

 そして、写真を撮り終わったとき、そのゼニトルマンは、私のバッグごと消えてしまっていました。私ってなんてアホ!

 都心の警察署に届けにいって、調書をとられ、
 「皮のハンドバッグね」「いえ、ビニールです」

 ここでなぜか、居合わせた刑事さんたちが、どっと笑ったのが、気に入りませんでした。

 私はそのビニールのバッグに、集めた30数人分の会費をぜ〜んぶ入れていたのですから。

 些細なことまで含めたら、実に多くの悪事が身辺に漂っています。

 浜の真砂は尽きるとも……って名セリフがあるところをみると、詐欺師、泥棒は太古の昔から、未来永劫、市民権を得ているのでしょうね。
 皆様くれぐれもご用心を!
HOME

腹?クロスグリ