ラベルのボレロと言う曲をご存知でしょう?単調なリズムとメロディが何時果てるとも判らず延々と続く曲です。
若い頃演奏会のプログラムにこの曲が入っていると、がっかりしたものです。
コンサート会場だったら、狭い椅子のなかで、どうやって快適な睡眠にはいろうかと、体の向きを調整し、テレビやラジオ放送でこの曲が始まると、そわそわとトイレに立ったり、何かの用事を思い出したりして、16分間の時間つぶしをしたものです。
それが、あるきっかけからボレロの摩訶不思議なリズムに、感性がゆさぶられて、この曲の呪縛霊にとりつかれてしまいました。
♪タンタタタ タンタタタ タッタ
タンタタタ タンタタタ タタタタタタ♪
この太鼓のリズムが、ある説明では167回!(もっと多いという説もありますけれど、私は数えた事はありません)
大きな声ではいえませんが、音楽教師として勤めていた高校の授業で、生徒が乗ってこない日、こちらも疲れてしまうと、お互いの休息タイムのために、この曲を鑑賞しました。
そう!何回聴いたかわからないくらい……
最初は始まったとたんに寝てしまう子がいたりして、妙にその子の気持が理解できたものですが、こちらはお給料をいただく立場となれば、音楽の垂れ流しというわけにもいきません。
そこで、解説書を引っ張り出して読んだ結果、この曲は、ドビュッシーによってあまりにも自由奔放に動き出してしまったフランス音楽のリズムを、古典派の明快なリズムに戻そうという思いから創ったもの、初めはバレリーナのイダ・ルビンシュタイン夫人に献呈されたものだということを知りました。
曲が始まると、地の底から胎動してくるような弦楽器のピツィカートに誘われて、フルートがかすかにテーマを歌いはじめ、通奏低音のような打楽器のリズムに乗って、牧歌的なテーマが更に管楽器の種類を増やしながら、だんだんに仲間を誘い出していく、そして、クライマックスになると、すべての楽器の参加で、マンネリ化した気分をぐいと引き起こされて、まったく唐突に終わりを告げるのですね。
最後のリズムの変化がなんともいえない快感です。
若い頃退屈に思っていた曲が、今はこれほど内面的に多くのものをもっている音楽はないと感じています。秘めたる情熱のほとばしりに体を突き動かされて、なんともいえぬ元気のもとがじわじわと出てくるのは、脳内革命が始まっているのかもしれませんね。
学期初めに感想文を書かせたら、半数以上が「退屈で好きでない」という意見だったのに、学年末のアンケートでは、たくさんの生徒が、癒しの音楽と感じていたのも、この曲の魔術でしょうか。
1年前、スペイン国立バレー団のボレロを観ました。赤と黒の衣装で踊るフラメンコのバレーはこの世のものとも思われない美しさだったのに、出先から疲れ果てて会場にたどり着いたわたくしめ、この曲が始まった途端、あの曲者の魔法にひっかかって、不覚にも寝てしまいました!
だからこのときの最高の演技は、後半だけの鑑賞です。
そうだ、今日は1日ボレロをBGMに、手仕事を楽しむことにしましょう。
曲に元気付けられて、さぼっている床磨きが出来るかも……。